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何か言われるだろう。そんな当たり前なことを思いながら俯いていた。慣れてはいた。ただ最近、疲れた。何故か疲れた。こんなことばかりで、どうなるかわかりきったことなのに、と。
たった一言だけを聞いて、千香は悟った。
「…………見ていられなかった」
恵がなにか喋る前に、千香が口を開いていた。
「初めて見た時から、見ていられなかった。あの子は、自分がここにいては邪魔だと理解していた。そんなことを、あの子は幼い頃から思ってしまっていたんだ」
恵は黙って聞いている。
「守らなければ、この子はいなくなってしまう。それは駄目だ。誰かが一緒にいて、守らなければ」
「それが、貴方の役目だったと? 貴方の人生を捧げるほどのものだと?」
「……わからない。その答えはわからない。真奈美もそうさせてしまった。ただ、あの子が笑って過ごせるなら、それだけで良かった。これだけは言えるんだ。だから──」
泣きながら、千香は願った。
「私に力がなかったからこうなってしまった。あの子を助けてくれ。お願いします」
──どうでもいいことを気にしていた自分が馬鹿だった。
──この人は、本当に願っている。
今までの自分が恥ずかしく思えた恵は、優しく千香の手を握った。その表情と瞳に迷いと疲れはない。ただただ、強い意志を持っていた。
「絶対に助ける。どんなことをしてでも、絶対に」
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