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休憩室で事の顛末の説明を聞いた純一は深く溜め息を漏らし、窓際に立って手をついた。誠二は立ち去ることなく、じっと立っていた。
「……修学旅行で初めて飛行機に乗った後。すぐに電話がきた。景色が綺麗だ、雲の上にいるって。馬鹿みたいにはしゃいで、嬉しそうで、こんな光景を手軽に味わえるようにしたいと。それが無人機開発まで進んで、こんな事態になった」
「愚行だと?」
「…………ここまでするとは思っていなかった。あいつは優秀だった。俺や文子以上に。もしかすれば、父さんよりも。やはり血筋なんだなと、感服したさ。だからこそ、他者に気を遣うのが気に食わない。自分は異分子だとわかって、それ以上踏み込まない。家族であるが故に家族ではない。そんな関係にしたくない。血の繋がった他人だと」
「沙耶さんの仕事において、貴方は随分とプロデュースなり挨拶回りをされていた」
「それがどうした。身内の会社だ。業績の為なら仕方ない」
「沙耶さんの為に。随分と紹介していたようだ。それこそ、自衛隊関係にまでよく手を伸ばされた」
「悪いかっ。妹がやりたいことをようやく話し、それの手始めにしたことが?」
振り向いた純一は、冷静とは言いがたい、見たことのない表情だった。
「俺のせいでこうなったんだぞ。あいつに道を示したから。父さんと文子になんて言えばいい? 俺が紹介して、沙耶がこうなってしまった。それで状況が打破できるのか? だったらいくらでも言ってやる。言えるとも」
締め付けられる胸を掴もうとも、心の痛みは消えることはない。鷲掴みにしたネクタイに付けられたネクタイピンと、左手に巻かれた腕時計。就任式で送られた沙耶からの贈り物。お前の祝い事だろうと、笑ってしまったあの時の記憶。
両膝をついた純一は躊躇することなく、額を床につけて頭を下げた。
「沙耶を助けてくれ。金はいくらでも出す」
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