Ⅷ 然して我らは抗う

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──────────  幼い頃の沙耶は、家に居場所がない訳ではなかった。父は子として接し、厳しい兄と優しい姉も家族として接してくれた。  だが、所詮は他人だった。  家族と言えど、血が繋がっているだけに過ぎない他人だ。沙耶にしてみれば、血の繋がりすらない本当の他人。家族と呼ばれようとも、家族ではなかった。家族とは思えなかった。  そんな捻くれた考えを、召使い達が変えていってくれた。彼女達は幼い沙耶に対して対等に接してくれた。いつも寄り添ってくれた。学生でありながら働く時も。父と、兄と姉も。こんな子供の為に懸命に。  会社を持って、事件に巻き込まれて。IМIに身を置くようになってから、より一層考えが強くなった。家族としての関係を強く感じたのだ。  色々な人達と出会って、話をして、本当に色々な人がいることを改めて知った。特にIМIの学生達は、同年代でありながら時として達観した思考を持つ者達が多かった。  楽しかった。  怖いこともあったが、楽しいことの方が多かった。  そんな彼らにまた会いたい。  父の容態が心配だ。皆に迷惑をかけている。どうなってしまったのだろうか。無事なのだろうか。そうだったらいいな。  また会って、笑っていたい。 『気を強く持ってください』  いつの日かの、IМIの彼に言われた言葉を思い出す。 『必ず助けます。沙耶さんを助けます。その時まで、どうか耐えていただければ』  あの時の、彼の瞳は真っ直ぐだった。強い言葉だった。なんの確証もないのに、絶対にそうしてくれる気がした。  だから、沙耶は《蜂蜜(フォンミィ)》の男達に凌辱され続けても悲鳴はあげなかった。ただただ、その言葉を信じて強くあり続けた。
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