Ⅷ 然して我らは抗う

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──────────  八重洲地下街の喫茶店。喫煙ルームで、陸上自衛隊一等陸佐の岸俊彦が煙草を吸いながらアイスコーヒーを飲んでいた。  仕事終わりでも、休日でもない。仕事中だった。スーツ姿で仕事を抜け出し、こんな所で紫煙を吐いているのは、なにもサボっているからではない。呼び出されたからだ。  一等陸佐という立場である岸は多忙だ。部下はもちろん、同僚でさえ気軽に会えるような時間がない。新しい部隊設立と、総責任者になった岸に暇な時間はないに等しい。唯一の休まる時間は、妻子との時間だけだ。  そんな彼が、わざわざ時間を作ってここまできた理由──本人がやって来た。  高身長の女性。半袖のワイシャツに黒のスラックス。豊満ながらも鍛え上げられた肉体。強気で釣り目が印象的な彼女──長谷川浩美が、アイスコーヒーを持って喫煙室に入り、岸の正面に座った。  遠慮なんてない。足を組んでアイスコーヒーを飲む長谷川に、岸は煙草を吸い続けた。 「時間はないんだが」 「待つのが性分なのでしょう?」  前回会った言葉を返されて、岸は鼻で笑った。
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