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血のように真っ赤な空だった。
だが穢らわしくない。黒く淀んでもいない。清らかにさえ思える、宝石のように輝く赤い夕日。沈む夕日は輝かしく、空色を染めている。沈むごとに空は暗くなり、夜を迎える。
この光景を見るのが、少年は好きだった。単純に好きだった。
目の前で、夕日の輝きにも劣らない澄んだ瞳を持つ少女と一緒に、沈みゆく夕日を眺めるのが好きだった。
「綺麗。都会の中じゃ、こんなに綺麗には見れない。郊外でこれだけ輝くもの。なにもない場所で見れば、それはもう最高に美しいと思うの」
少年は頷く。確かにこんな空は、雑多な都会では見ることができない。郊外に出てもビルが邪魔をしている。
「ねぇ。今度の休みに旅行しようよ。連休だし。どうせやることないんでしょ?」
「酷いなぁ」
困ったように首を捻るが、生憎と少女の言葉通りだった。あんな場所にいてもやることはない。
「いいよ。行こう」
「約束。ちゃんと守ってね」
振り返り、少女は満面の笑みを少年に見せる。その時、少年は美しいと思った。夕日ではなく少女を。輝く背景を背にしながらも、少女しか目がいかない。
この時、ようやく理解した。
ああ。これが恋か――と。
三流小説より酷く、稚拙な表現。だが少年は理解したのだから仕方がない。そうとしか言い様がないのだから。
「ああ。行こう」
この赤い空と同じ名を持つ少女に、少年も笑いながら言った。
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