自動販売機

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田舎町の片隅に、古ぼけた自動販売機が置かれている。特に変わった様子もなく、どこにでもある普通の自動販売機だ。ただ、田舎町ということもあってか、清掃が行き届いておらず汚れている。忘れ去られているわけでもなく、商品の補充だってちゃんと行われているのだけれど、あまり、客が寄り付かない。 まぁ、そのまま忘れ去られても、なんの問題もないのだろう。撤去されたとしても、人の記憶に残ることもない、あぁ、無くなったんだなくらいで終わってしまう。古いものは消えて、新しいものがやってくる。サイクル、グルグルと回る一個の輪のようなものがこの世にはあるものだ、しかし、その自動販売機はいつもそこにあった。いつまでもそこにあった。 朝も昼も夜も、そこにあった。勝手に動き回ったりしないし、場所がほんの少しズレたりはしない。そこにある。変な噂がたつこともないし、都市伝説になるわけでもない、ただ、そこにあるのだ。 ただ、その自動販売機の不思議な、ちょっと奇妙な部分を上げるとするなら、商品が並ぶ右端の一番下がぽっかりと一つだけ『空白』だということだ。本来なら、商品がある場所なのにいつまでも『空白』、誰にも気にとめなめない些細なことだけれど、ちょっと不思議でもあった。 そんなある日のことである、一人の作業員が自動販売機にやってきた。彼はこの田舎町に仕事でやってきて、休憩ついでに飲み物でも買おうとしていた。時刻は夜中、まだまだ寒いこの時期、ここは温かいコーヒーでも飲もうと小銭を入れて、ボタンを押そうとしたけれど、ふっと右端の一番下、空白の部分にもライトが点灯していることに気がついた。機械の誤作動か? 彼はそう思ったが、しかし、この古ぼけた自動販売機と田舎町という舞台が彼の好奇心を刺激する。 もし、このボタンを押したらどうなるのだろう? そんなことを考えた。バカバカしいことだと笑い飛ばすこともできるが、退屈な日常のほんの少しのおふざけ程度、ちょっとしたお遊びならと、どうせ押したところで誰にも迷惑になるわけじゃない、単なる機械の誤作動で終わってしまうかもしれない。男はそう思い、恐る恐るボタンを押した。 グシャリ…………と、音がした。 グシャリ、グシャリ…………、と、音がした。 グシャリ、グシャリ、グシャリ…………と音が続いた。
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