自動販売機

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「…………ハッ!? あ、? ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!?」 自動販売機のボタンがパックリと穴が開き、男の人差し指、右手、腕の順で租借していったのだ。脳みそが理解したところで、対処できるわけじゃない。ボタンを押したら、右手ごと食いちぎられたなんてことがあるわけがないのだ。田舎町の古ぼけた自動販売機のボタンを押すだけで右手ごと食いちぎられたなんて、笑い飛ばすこともできない。 いや、彼は右手を失っているのだから、笑い飛ばす余裕なんてないのだけれど、切断された右腕から血飛沫が飛び散るが、それすらも気にかける余裕なんてなかった。パックリと開いた穴から、ジュルジュルと触手が男の身体に巻きついて、切断された右腕を肩からあらぬ方向に捻ることで断ち切る。無理矢理、捻り切る。当然、男は痛みのために絶叫するが、誰か助けてくれることもない、ジュルジュルと溢れ出した触手は男の右腕を、ムシャ、ムシャ、ムシャと喰っていく。骨も肉も筋肉も血も神経も細胞も全て喰っていく。喰い残さず全て喰う。喰う。喰う。とにかく喰う。 ムシャ、ムシャ、ムシャ、ムシャ、ムシャ、ムシャ、ムシャと、男の左腕、右足、左足、胴体、そして、頭部の順で喰い尽くす。男は最後まで何が起こったか、わからずに死んだ。その直後、深いシワを刻んだヨボヨボの老人が自動販売機の前に立ち、一番下、右端の空白に目を向けて、シワを歪めて笑う。 「ホッホッホッ、これぞ、若さの秘訣だのう」 その視線の先には空白だった場所に、赤黒いラベルの商品が『補充』されていた。老人は硬貨を入れて、ボタンを押す、ガコンと音がした。 田舎町の片隅には、古ぼけた自動販売機が置かれている。どこにでもある普通の自動販売機だ。いつでもそこにあるし、いつまでもそこにある。当然、一番下、右端は『空白』だ。 自動販売機はいつでもそこにあるし、いつまでもそこにある。ただ、『補充』されて、『販売』するだけなのだから、ただし、何が売られているかは、保証できないけれど…………
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