第4章

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なんだか、調子狂うな。 私より全然、余裕がある感じ。 昨日、初めて待ち合わせをして、 一緒に出かけた。 ドライブして、食事して、 手をつないだだけだけど、 思い出すだけで、心臓が飛び跳ねる。 今日は柴田が終日外出のために 職場で顔を合わせないで済んで、 実はほっとしていた。 意識しすぎて、 いつもどおりにしゃべったり、 笑ったり、できそうになかった。 きっと、美和の態度で、 周囲にすべてを悟られてしまう。 そう思った。 「柴田くん。私、社内恋愛、向いてないかも」 「どうして?」 「だって、きっと顔にでちゃうから」 柴田はおかしそうに笑って、 もう一度手を強く握りしめた。 「顔に出ても、いいよ」 「よくないよ。ばれちゃうし」 「ばれたら、ばれたでいいって」 「柴田くんがそれで何か言われちゃうかも」 「おれは、平気。気にしない」 「でも」 「美和さん」 柴田は足を止めて、 美和の目をまっすぐのぞきこんだ。 「それって、二人の間が うまくいかなかった場合に困る、 ってことでしょ? うまくいくならそれでよくない?」 美和は、びっくりして、何も言えなかった。 そのとおり、なんだけど。 ほんとに、そうなんだけど。 一呼吸おいた後、美和は頬を赤くして、 困ったように柴田をにらんだ。 「なんでそんなに余裕あるの? ずるい」 今度は柴田の方が面食らった顔をした。 「ねえ、美和さん」 「ん?」 「あんまりかわいいこと言うと、キスするよ」 そう言い終わらないうちに、 唇に思いがけない感触がやってきて、 美和は身動き一つできなかった。 冷たい夜風が頬をかすめ、 頭上の桜の枝が身震いするように 細かく震えた。 「……昨日、しそびれた分」 柴田は、仕掛けたイタズラを 成功させた子どものように笑って、 ぐいっと美和の手を引っ張って再び歩きだす。
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