第5章

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第5章

思っていたより、体が冷えていたようだ。 公園近くの居酒屋に入った時、 ほんわりあたたかい空気に包まれて、 肩の力が抜けてほっとした。 二人でモツ鍋をつついている時、 ふと、柴田が手をとめて ニコニコしているのに気付いた。 「なんか変?」 「ううん」 柴田は笑顔のまま、再び箸を鍋に突っ込んだ。 「なあに?」 気にしてもう一度きいた後、 美和は思い当たって、わかった、とつぶやいた。 「また、幸せそうに食べる、って言うんでしょ?」 昨日、幸せそうに食べるようすが、 いいな、と思ったはじまりだった、 と柴田は言っていた。 「うん」 柴田は笑ってうなずき、うまそうに肉を頬張る。 「自分だって同じくせに」 美和は唇をとがらせ、苦情を言う。 「美和さんが一緒だからだよ」 「私って、それしかとりえがないみたい」 「そんなこと言ってないし」 すねたそぶりの美和を柴田はおもしろがった。 「じゃあ、他にもイイトコロをあげますよー。 そうだな。たとえば、 しっかりしてそうなのに、 ふらふらして迷子になるとかー。 顔に出るくらい余裕ないって、 正直に白状しちゃうとことか」 「それ、全然ほめられてない」 「ほめてるよ。いいじゃんかー」 「そんなの、ヤダ」 「そういうのが、いいんだけどなー」 美和が怒ったような様子なので、 柴田は不思議そうに首をかしげる。
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