第1章

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話をするって、何を? 公園のトイレの洗面台で手を洗いながら、鏡を見る。 言えるわけ、ない。 美和は頬をふくらませて、鏡の向こうの自分の目をにらんだ。 依子が社内恋愛の末に結婚して、今は子育てもしている、そのことがちらっと頭をよぎって、 つい、依子に話を聞いてみたい衝動にかられたのだ。 そう。社内恋愛。 まさか、自分がそういう状態になることがあるなんて、 思ってもなかった。 しかも、4つも年下の後輩を好きになるなんて。 右手にのこる、彼の手の感触。 思い返して、左手で右手を握るだけで、 心臓が跳ね上がる。 耳の後ろが熱くなる。 美和はその右手を唇に押しあてて、 ゆっくりと息を吐き出した。 まるで中学生の初恋みたい。 私、ほんと、大丈夫かな。 美和は、もう一度鏡を見た。 会社の人たちと一緒にいる間は、 何でもない顔をしてそこにいなくちゃ。 何でもない顔を。
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