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話をするって、何を?
公園のトイレの洗面台で手を洗いながら、鏡を見る。
言えるわけ、ない。
美和は頬をふくらませて、鏡の向こうの自分の目をにらんだ。
依子が社内恋愛の末に結婚して、今は子育てもしている、そのことがちらっと頭をよぎって、
つい、依子に話を聞いてみたい衝動にかられたのだ。
そう。社内恋愛。
まさか、自分がそういう状態になることがあるなんて、
思ってもなかった。
しかも、4つも年下の後輩を好きになるなんて。
右手にのこる、彼の手の感触。
思い返して、左手で右手を握るだけで、
心臓が跳ね上がる。
耳の後ろが熱くなる。
美和はその右手を唇に押しあてて、
ゆっくりと息を吐き出した。
まるで中学生の初恋みたい。
私、ほんと、大丈夫かな。
美和は、もう一度鏡を見た。
会社の人たちと一緒にいる間は、
何でもない顔をしてそこにいなくちゃ。
何でもない顔を。
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