第2章

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第2章

「お疲れ様です! 遅くなって申し訳ありませんでした」 美和が花見の宴に戻って来た時、 ちょうど柴田祐太が営業部の席に合流して、 先輩社員たちに直角に腰を曲げて 大きな声で挨拶しているところだった。 「柴田ー! 遅れた分の 手土産はあるんだろうなー?」 「ハイッ。詳しくは明日報告します!」 「よーしよし! なかなか自信があると見た」 「まあー、まずは飲め!」 「ありがとうございます! 柴田祐太、飲みます!」 鬼軍曹の群れに丸腰で飛び込んだ、 新入りの兵隊みたい。 いつものノリなのだが、 こうして客観的に見ると、 なんだか恥ずかしい。 その様子に、他の部の社員たちが、 クスクス笑っている。 美和が戻るのに気後れしていると、 「あ、柴田さん、間に合いましたね。 よかった!」 後ろから里紗が弾んだ声を上げた。 「おでん、まだあるので 持っていきますね」 「あ、ありがとう」 総務のケータリングゾーンに 走っていく里紗の はりきった後ろ姿を見送りながら、 美和は、なんとなく 遅れをとった気になった。 「美和ちゃん、これどうぞー」 男性たちの騒ぎをよそに、 席に戻った美和に、 依子が焼き鳥の皿を ゆったりと差し出した。 「ありがとうございます!」 そういえばまだお腹に 余裕があったことを思い出し、 喜んで目の前の食べ物に ありつくことにする。 一本手に取ってかぶりついてから、 案外近くに柴田の背中があったことに 気付く。 食べ物を口にする前に いきなりビールを何杯も飲み干して、 柴田はさすがに耳と頬とを赤くして 酔いが回ったように見える。 柴田くん、食べる? 背中に手を伸ばそうとした瞬間。 「柴田さん、お疲れ様です! おでん、いかがですか?」 里紗がやってきて、 先んじて声をかけたので、 美和は開いた手をぎゅっと握って、 言葉をあわてて飲み込んだ。
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