第2章

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「ありがとうー! すっげー腹へってたんだ」 柴田の喜ぶ声を聞くと、 美和は遅れをとった自分に ちょっぴりへこむ。 だよねー。 お腹空いてたよね。 気が利かないな、私。 「伊東さんって、意外と積極的ですね」 後輩の畑中洋子がこそっと囁いた。 「おとなしそうな顔してるけど」 「柴田くん、人気あるわねえー」 「え。依子さん、他にも誰か知ってるんですか?」 おっとりした依子の言葉に、 洋子が好奇心で目を輝かせ、身を乗り出す。 「うちに出入りしてる女子社員は、 柴田くんがお目当てみたいよ」 「あ。そういえば、 確かに最近、書類をわざわざ もってくる人、多いかも」 「でしょ?」 「なるほどー。気付かなかったー」 美和は黙って缶チューハイを飲みながら、 依子と洋子の噂話を聞いていた。 もちろん、心中穏やかではない。 言われてみればそのとおりで、 以前と比べて、書類の持ち込みで営業部にやってくる 女子社員が増えている。 ちらりと横に目を向けると、 里沙の高揚した笑顔と、 柴田のリラックスした表情が見えた。 いつの間にか、 他の部の柴田の同期の男子社員や、 里沙と同期の女子社員の顔も増えている。 柴田には、男女、年齢を問わず、 人に好かれ、周囲に人を自然に集める才能があると思う。 もちろん営業部員としては武器となるスキルであり、 普通に人として生きていく上で、魅力的な能力だ。 楽しそうな彼らの様子に、 思わず美和も見ているだけで口元をほころばせながらも、 なぜかおいてけぼりになったような、 少しさみしい気持ちにもなる。
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