第3章

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第3章

8時半を過ぎたところで、 社長の締めのあいさつのあと、撤収となった。 片づけがはじまり、所属部署のエリアを 各自ごみをまとめたり、 ゴザをたたんだりしていく。 そのごたごたの中で、 柴田は、美和の姿が見えないことに気付いた。 「大野さん、北島さんは?」 一緒にいたはずの大野依子に聞くと、 「あれ? トイレかな?」 と美和の不在に気付いていなかったようだった。 「バッグはここにあるから、 まだいるはずだけど」 両手にごみの袋を握ったまま、 依子は目で美和の茶色い革のバッグを指した。 たしかに、美和のものだ。 昨日のデートの時にも持っていた。 社長の挨拶の時点で、 美和がいなかったことに、 柴田は気付いていた。 依子も少なからず酔っているので、 そのことを気にとめて いなかったようだ。 携帯電話で発信履歴から 電話をかけてみた。 バッグの中から 振動音が聞こえてくる。 携帯も持たずにいるなら、 すぐに戻りそうなものだ。 「柴田くん、そこにある荷物を 外に出してくれる?」 畑中洋子がゴザの端を持って 声をかけたので、 柴田は急いで荷物を動かしていく。 ゴザが畳まれていくのを 横目に見ながら、 柴田は自分と美和のバッグを 持って公衆トイレに向かった。
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