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頭上に広がる満開の桜は、
夜の闇の中で見ると、
どことなく妖艶な薄墨色をして
果てなく続いている。
見上げて考えごとをしながら
なんとなく歩くうちに、
美和はすっかり戻る道を
失ってしまった。
花見の宴はそこらじゅうで行われ、
街灯や提灯のわずかな明かりは
頼りにならず、
暗がりの中ではどの酔った顔も、
騒ぐ声も、同じように感じて、
なんの目印も覚えずに歩き出したことを、
後悔することになった。
さっき使ったトイレに戻ろうとするのだけど、
それすらもう、わからなくなってしまった。
せめて携帯をもってくればよかった。
我ながら、情けない。
美和はすっかり途方にくれて、立ちすくんだ。
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