第3章

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美和はバッグの中の 自分の携帯電話を取り出してみた。 20:40に柴田からの着信が、1件。 今は、21:10。 探させちゃったな。 面目ナイ。 「今から? あ、そっかー」 誰かに誘われているようだ。 美和は柴田の横顔を見上げた。 同期や後輩と 楽しそうに盛り上がっていた様子を 思い出す。 「ごめん、ちょっと先約があって。 声をかけてくれてありがとう」 電話を切ったあと、美和が 「私に気を使わないで、 行ってきたら?」 と提案したので、 柴田はきょとんとした。 「え? なんで?」 「他の部の同期の人でしょ? 集まる機会もそんなにないだろうし」 「いいよー、別に」 柴田は笑って、首を振った。 「あいつらとはさっき十分しゃべったから」 「そう?」 「それより、腹減って倒れそうなんですけど」 柴田はそう言って、目とあごで先を促した。 「行きましょう」 二人は肩を並べて歩きはじめた。 「ほんとに満開ですねー」 「そうだね」 並んで歩きながら、 一緒に頭上に広がる花のトンネルを 見上げた。 「これ見ながら歩いてたら、迷子になっちゃうよねー」 「ちょっと! 迷子じゃないし!」 「え? 違うの?」 あわてて否定する美和を見下ろして、 柴田はクスクス笑った。 「見ながら歩いてるうちに どっち行ったらいいか、わからなくなったんじゃないんですか?」 「う。そうだけど」 言葉をつまらせてうつむいた美和の右手を握って、 柴田は笑った。 「迷子になった時は、ちゃんと見つけるから、 大丈夫ですよ」 美和は、柴田の横顔をそっと見上げた。 柴田くんって、こんな人だったっけ? 一緒にいると安心しちゃうんだけど、 それでいいのかなあー。
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