第1章

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第1章

今年の桜は3月半ば、 例年より2週間ばかり早く満開を迎えた。 「なんだってまた、こんな時期に咲いたのかねえ」 「今時、全社をあげての花見なんてなあー」 本来の4月から 日程を繰り上げて開催になった花見に、 営業部の面々は不満たらたらである。 それも無理はない。 3月といえば1年の総決算の時期であり、 年度末の駆け込み受注の獲得、 請求の取りこぼしゼロを目指して 連日残業が続く時なのだ。 だが、社内行事をこよなく愛する社長の方針であり、 特にこの太田川公園での花見は特別な理由のない限り 基本的に全員参加とされているので、 頭ではとっちらかったデスクの書類が気になっていても、 体は参加しなくてはならないのが サラリーマンのつらいところだ。 満開の桜の下、 残り仕事のことが気になる彼ら以上に、 心ここにあらずの社員が、ここにも一人。 「はぁ~」 北島美和の口から 思わずため息がこぼれた。 「めずらしいー。 美和ちゃんでもため息つくことがあるのね」 同じ営業部の先輩社員、大野依子が 缶ビールを口に運びかけた手を止めて、反応した。 「あ。すみません」 美和はあわてて手で口を押さえる。 「なんであやまるの。 別に悪いって思ってないのに」 依子がふっくらした頬をゆるめ、目を細めてニコニコ笑う。 つられて思わず笑顔になりながら、美和は、 ふと、依子に話をしてみたらどうかな、 とちらりと考えた。 「なあに?」 じっと顔を見られて、依子が首をかしげる。 「あ、いえ。なんでもないです」 美和は笑って、立ちあがった。 「ちょっとお手洗、行ってきまーす」
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