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たぶん、でも、きっと。1-1    たぶん、でも、きっと        1. 「幸せそうですねえ」 柴田祐太が、ぽつりとつぶやいた。 北島美和は大口を開けて、 頂き物のシュークリームに かぶりつくところだったのを取り止めて、 隣の席を振り返った。 「私に言った?」 「はい」 「柴田くんも食べる?」 「いや、そういう意味じゃなく」 美和がシュークリームを 二つに割ろうとしたので、 柴田はあわてて手を振って訂正する。 「北島さんって、食べてる時が一番幸せ、 って顔するなあと思って」 「ええー? そうかなあ」 それってどうとらえたらいいんだろう。 美和は複雑な心境で 手元のシュークリームを見下ろした。 「そんなもん食ってると太るよ」 通りすがりざまに部長の中川が ニヤニヤ笑って忠告していった。 「はーい。ご忠告ありがとうございます」 カロリーも気にならないわけではなかったが、 目の前の誘惑にはかなわない。 「いただきまーす」 美和は思い切ってシュークリームにかぶりつく。 やわらかなクリームがとろんと 口の中にこぼれ出して、 自然と頬が緩んでしまう。 隣で柴田がにっこり笑って、 鳴り出した電話に手を伸ばした。
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