4.過去(3) 2003年3月15日

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手を休めて窓の外に目を向けると、 朝降っていた雪混じりの雨は止んだようだ。 背中の方で加湿器がしゅーしゅー言いながら 白い霧を吐いている。まだまだ寒い。春は遠い。 だけど、1/50の世界では春ということにしておこう。 昨日の帰りにちぎった綿にエアブラシを使ってピンク色のアクリル絵の具で色をつけておいた。 割り箸をカットして茶色く塗ったものに太めのワイヤーを巻きつけていくつか枝を作る。 そこに綿を巻いたり接着させて、満開の桜の木を仕上げていく。 一月に撮った家の外装写真を確認する。 ここに写っている桜は葉が落ちてしまっている。 六十代の男性と息子夫婦と一歳半の男の子。 九月には赤ちゃんが生まれる。 そんな家族の家。改築が終わるのは今年の六月だけど、来年の春、この家で見られるのは、こんな風景。 日曜日。男の子は庭で自作の歌を歌いながら三輪車を走らせる。 庭の草花の手入れをしているおじいちゃんが、時々男の子の問いかけに答える。 家の中ではお昼寝から目を覚ました赤ちゃんが泣き出して、お母さんがベビーベッドに駆けつける。 お父さんも新聞を置いてそれに付き添う。 庭にしっかと根を下ろした桜の木は、枝にたっぷりと花を咲かせて、静かにそれを見守っている。 写真を見て、慎重に木を固定する位置と角度を決める。 こうして少しずつ完成に近付いていく瞬間が 一番わくわくする。
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