4.過去(3) 2003年3月15日

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作業部屋のドアを開けた途端。 「わっ。なんだよ。黙って出てくるな」 一番手前の席の高松さんが驚いて前に立ちふさがった。 柔道部出身だという、縦にも横にも大きい高松さんが前にいたら、身動きが取れない。 黙って出るなって言われても……。 大体いつからそんなルールが? 困惑していると、中西さんが、模型はできたか?、と問いかける声が聞こえた。 「はい。できました」 私は大きく頷いた。 今回は、今までの中でも一番の自信作だ。 「よし。こっちも準備OKだ」 ん? プレゼンテーションの資料のこと? そういえばなんかこの部屋、暗いし。 プレゼンの練習してたのかな。 首を傾げる私の前から、ようやく高松さんが横歩きで動きだした。 視界が開けた。 「ハッピーバースデイトゥユー、 ハッピーバースデイトゥユー」 中西さん、谷さん、高松さんが横に並んで、歌い出した。 三人の前、部屋の真ん中にあるミーティングデスクの上に、大きな苺のデコレーションケーキ。 二本のロウソクに小さな炎が揺らめいて、いつになくニコニコしている三人の頬を温かく照らしている。 四つのグラスに、ワイン。白いお皿とシルバーのフォーク。 「ハッピバースデイ、ディア、鈴ちゃーん。 ハッピーバースデイトゥユー」 「おめでとー」 拍手の音。 「えーと」 脳の回路が混線中ですけど。 「アホみたいに口開けてないで、早く来い。今日、誕生日なんだろ?」 いつまでも私がぼーっとしているので、中西さんが呆れて面倒くさそうに手招きする。 呼ばれるままに、テーブルの前に立つ私に、中西さんが優しく言った。 「せっかくの誕生日、しかも土曜なのに、 ご苦労様。せめてお祝いくらいはね」 「ワインは中西さんから。 なんかすごくいいものらしいわよ」 と、谷さん。 「ありがとうございますー」
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