11.過去(9) 2006年1月1日

1/5
前へ
/38ページ
次へ

11.過去(9) 2006年1月1日

まだ、家を出る時に心に決めたことを言い出せないままだ。 年が明けるその前に、と思っていたのに。ドアを開けるまでにさんざん迷って決めたのに。 守屋さんと二人で明治神宮に初詣にやってきた。 いつものようにお蕎麦だけで終わらないで済んだ。今夜は大晦日だから。 それなのに、ダメな私。 「パパ……ううぇ」 私は小さな女の子を両腕に抱えて、前を通り過ぎる人の波を目で追いながら、途方に暮れた。 同じように食い入るように列を見つめる女の子の目は洪水状態。壊れた水道の蛇口みたいに涙がどんどん頬に溢れ出す。指を口の中に突っ込んで体を震わせている。 「ねえ、お母さんたち、いない? 見えない?」 「いないー。うっうっ」 何を聞いても彼女は泣くばかり。 私も泣きたい。 十二時が過ぎて参拝がはじまり、お賽銭箱までたどり着いて手を合わせた直後。人の波が押し寄せてきてその中でもがいているうちに、いつの間にか守屋さんとはぐれてしまっていた。 携帯は、回線が混み合っていてつながらない。その上、同じように迷子になった子どもが私の手を離さず、この場を離れることもできなくなった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加