11.過去(9) 2006年1月1日

2/5
前へ
/38ページ
次へ
私の人生なんて、こんなものなのかも。 今日こそ、と思った時に限って、うまくいかない。 私はそっとため息をついた。 わかってる。今日こそ、というタイミング自体が遅いんだ。 目の前を通り過ぎるチャンスをぼんやり見送って、手を伸ばそうと思った時にはもう遠いところに行ってしまって届かない。その繰り返し。 『あの時こうしたら』って何度も後悔してばかり。情けない。 女の子の背中をさすりながら呆然と突っ立っていると、向こうから今にも泣き出しそうな顔の女の人が転げるようにして駆け寄ってきた。 「カナちゃん!」 目の前の泣き顔と瓜二つだ。 「ママ! パパ!」 女の子がしゃくりあげながら両手を伸ばす。 待ち人、来たる。 ほっとした。 「ごめんね、カナちゃん。ごめんね」 「どうもすみません。ありがとうございます」 お父さんらしい男の人が長い両腕で女の子の体を受け取り、しっかり抱きしめた。 二人は丁寧に何度も頭を下げて、その場を立ち去っていった。 仲良く体を寄せ合いながら遠ざかる家族の後姿を一人で見送ると、何とも言えず淋しい気持ちになった。 あの人とならいつかあんな家庭を築けるかもしれない、って割とリアルに想像できてたんだけどな。 また、遠い夢になってしまった。やっぱり私にはそういう現実は訪れないのかもしれない。 冬の夜風がやけに身に染みる。 もう帰ろうか。きっと、守屋さんも家に向かったに違いない。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加