11.過去(9) 2006年1月1日

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「こんなとこにいた」 駅の方に足を向けようと決めた時、ぽんと頭の上に大きなものが乗っかるのを感じて、顔を上げた。 「どこ行ったかと思った。迷子の放送まで考えたよ。見つかってよかった」 守屋さんが、ほっとした顔で笑っていた。 小さな子供にするみたいに、髪の毛を手でくしゃくしゃにされた。 今度こそ本当に涙がこぼれそうになった。 私を、探してくれていた。まだ帰ってなかったんだ。 私は思わず守屋さんのダウンジャケットの袖を握った。 「私、ついていってもいい?」 あきらめかけてた言葉が思わず口をついて出た。 頭の上に置かれた温かい掌が余計な不安や心配を全て溶かしてしまったのかもしれない。 首をかしげ何のことか問いかける守屋さんの目をまっすぐに見る。 「先のことなんか約束しなくていい。掃除でもベッドメイキングでもウェイトレスでもなんでもやって、自分の生活くらい自分でなんとかする。このまま何事もなかったみたいに終わらせたくない。だから、傍にいてもいいですか」 自分でも信じられないくらい、すごい勢いで言いたいことを一気に話した。 これが最後のチャンスだ。 きっと今を逃したら、もう二度と言い出せない。今日別れたら、それきり。この人は二度と私を探してはくれないだろう。 『もしかしたらあの時』って思いながら一生を終えるのは嫌だ。
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