11.過去(9) 2006年1月1日

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全てをさらけ出した後。 「まいったな」 守屋さんがいかにも困った顔を見せたので、そのまま腰が抜けそうになった。 私たちの間に通い合う気持ちがある、なんて思ったのは、勘違い? ただの、自惚れ? 膝が小さく震え出す。この場から一刻も早く逃げ出したくなる。 私が既に絶望しかけていることを知ってか知らずか、守屋さんの動作の一つ一つは恐ろしくゆったりとしていた。ダメならダメで一刻も早く一思いに斬り捨ててほしい、と思うのに。 守屋さんは両手をダウンジャケットのポケットに突っ込んで、顎を上に向けて天を仰いだ。 ふうーっと長く白い息を吐き出した後、再び私の顔を見た。その目は真剣で、冗談を言うようには見えず、これから告げる言葉がいいことなのか悪いことなのかも予測がつかない。 そしてポケットから出した左手で私の右手をつかんで、一言一言、噛みしめるように言う。 「アメリカで成功する保証はない。失敗して全て失うかもしれない。今まで日本でやってきたことがそのまま向こうで通用すると思ってないし、ある意味本当にゼロからのスタートだと覚悟している。仕事の実績も、財産も、何もない状態。それでも、一緒について来てくれる?」 はい、と迷わず頷いた私に、彼もまた一つ頷く。
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