2.過去(1) 2005年10月13日

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記憶がすっぽり抜けてるんだとすると、 なんだか自分が心配になる。 大丈夫? 私? 「中西とお約束ですか? どうぞこちらに」 かなり長いことその場に立たせたまま だということに気付いて、 私はあわてて彼を エレベーターの前に案内した。 ボタンを押すとすぐに エレベーターの扉がゆっくりと開いた。 その時、 実際には扉が開いていく様子を 目で見ていながら、 頭の中では、 映画のフラッシュバックみたいに 瞬間的に蘇った記憶を再生していた。 エレベーターの中。眼鏡。 扉が開いて、外に出る。 思わず守屋さんの顔を見上げた。 そうだったんだ……。 道理で記憶が一致しないはずだ。 守屋さんも同じように思い至ったらしく、 おもしろがる様子で静かに笑っていた。 その笑い方を見て確信した。 ああ、この人だ。 やっぱり、間違いない。 「ふふっ」 なんだか急におかしくなって、 私もつられて笑い出した。
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