Forget me. Then not.

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 伯父は門を出て丘を降りる道を歩き、夕闇の中に沈む港の方向をながめながら言った。 「トリエステの街もすっかり変わってしまったな。ハプスブルグ王家から自由になったのはいいが……」  ダイニングルームのテーブルの埃を払い、アンドレアは固い黒パンだけの夕食を取った。両親の遺産で当分生活に心配はなかったが、できるだけお金を節約しなければならない事を理解できる程度には、14歳のアンドレアは賢かった。  外がすっかり暗くなり、月明かりがあるのを確かめて、アンドレアはいつものように、キャンバスと架台と画材を入れた大きなバッグを肩にかけ、左手にランプを下げて、少し離れた隣の丘に向かって家を出た。  以前までアンドレアのアトリエだった二階の部屋は壁が崩れてもう使えない。絵を描く時は外の方が気分が変わってよかったという理由もある。  隣の丘の上には、いくつかの石壁と大理石の柱の根元だけが残った廃墟があった。それが何の跡なのか、アンドレアは知らなかった。  わずかに天井の一部が残って宙に張り出している、その下がいつもの場所だった。ランプに火を灯し、イーゼルを立て、キャンバスを乗せ、鉛筆を取り出したところで、いつものように突然声がした。 「今夜もよろしくね。未来のマエストロさん」
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