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そう言って二歳か三歳年上のその少女は、真っ白なレース付きのブラウスの上に着た黒っぽい上着を揺らしながらクスクスと笑った。同じクスクス笑いでも、街の子供たちのような不快な思いは感じなかった。
アンドレアは帽子を取っていつものあいさつをした。
「こんばんは、おねえさん。今日は何という名前なの?」
少女は毎回違う名前を名乗った。少女は右手に人差し指をちょこんと顎にあてて、考え込んだ。
「ええと、前は何だったかしら?」
「この前はミレッラだったよ。その前はラウラモアナ」
「じゃあ、今日はクラウディア。ミサではいつもお祈りの言葉を任される、しっかりした子だったわ」
少女はアンドレアの向かい側の柱の根元に腰かけた。アンドレアはキャンバスの上に鉛筆を走らせた。スケッチを描きながらアンドレアは街であった嫌な思いを少女に話した。少女は少し小首を傾げて優しい声で問いかけた。
「パン屋のおじいさんたちにあいさつはしてる?」
「あいさつ? どうして僕が?」
「ねえ、アンドレア。ノブレス・オブリージュって知ってる?」
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