Forget me. Then not.

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「ううん、知らない? フランス語かな、その響きだと」 「そう、高貴なる者の義務という意味。この世界には全ての人に役割があるの。だから貴族は平民に、資本家は労働者階級に感謝して彼らの生活が良くなるよう奉仕の心を持たなければならない。分かる?」 「ううん……よく分からないな」  夜が更け、アンドレアが疲れを感じ始めた頃、いつものように少女は立ち上がり、バレエのようにくるくると体をおどけて回転させながらアンドレアの方へ近寄った。足首近くまであるフレアスカートが落下傘のように丸く広がり、その裾がふわりふわりと宙を舞った。少女がキャンバスをのぞき込んだ時、彼女の髪がアンドレアの頬に触れ、甘い香りがアンドレアの心臓をどきどきさせた。 「すごい。ほとんど出来ているのかしら?」 「下絵はもう完成だよ、おねえさん。次から色を塗ることにするよ。ところで、おねえさん。あれはラファエル社のチューブ絵具の事かな?」 「あら、何の話?」 「おねえさんが前に言った、僕が持ってておねえさんが持っていない物。あの話」 「ああ、そうだったわね。残念、今回もはずれ」 「ううん、いったい何だろう」 「時間はまだあるわ。ゆっくり考えることね。さあ、今夜はもうお帰りなさい。春が近いとは言っても、寒さは体に毒よ」
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