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円はさっきまでの自分のペットボトルに手を伸ばす。
「コレは紅茶に見せかけた保存薬」
と、透き通ったペットボトルの中身を指差し『受精卵の保存期限が明日までだったから、焦ったぁ』と笑う。
「それから彰、ひとつ忘れてない?『この兒養ふ程に、すく/\と大きになりまさる。三月許になる程に、よき程なる人になりぬれ ~』てね」
人差し指を立て、指揮者のタクトのように振る。
「俺達の成長スピードはこの星の常識とは違うよ。それに人工的な羊水には成長促進剤も入っている…ただ」
申し訳なさそうに眉を寄せる円の目が、彰の腹部を見つめた時、彰は急に体が軋み始めたのを感じて力が入らなくなっていった。
手を見ると、みるみるうちに肌の色が死人のように変わり、 骨が浮き出て肌がカサカサに乾燥し、ぴしりぴしりとひびが入りパックリ割れていく。
「栄養は“母体”から胎盤を通して急激に摂取するんだ。だから、しょうがないよね」
体を震わせ手を凝視している彰の手を握り、円は甘えるように言う。
(今の俺の姿は…いったいどうなっているんだ?それに、腹に何かいる!)
腹は前にせり出すように膨れ、先程から内側から押すような力を感じる。
頭が追い付かない恐怖に体がガクガク震え、カチカチ鳴っていた彰の歯が、弱った歯茎のせいかカルシウムを失ったせいか…ポロポロといとも簡単に抜け落ちた。
「ひ…ひいぃっ!」
落ちた何本もの血まみれの歯を見て、彰はもう少しで卒倒しそうになるのを堪えた。
「彰だから本当のこと言ったんだよ。俺の星の最高の愛情表現がね…子どもを産ませることなんだ」
「ああ、あっ…くひゅ…ひゅー…」
「そろそろ1時間だね。彰…地球の表現で言ってあげる。
愛してるよ…」
「が…ぐぅ…ぐあ…」
涙を流し苦しむ彰の腹が大きく波打ち、内側からさらに押された腹が、栄養を摂られ薄く干からびた皮を意図も簡単に破裂させた。
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