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「詳しくはわからないが、室町時代あたりでこう言った物語があったようなんだ。桃太郎に関しては、初出が江戸中期の赤本だと言うが、俺はもっと以前、室町時代には元になる原形の話があったんだと思う」
彰は『と、言うことは…』とノートの次のページをめくり円に見せた。
「おそらくそれ以降、江戸時代におおっぴらに出てこないのは、人から生まれてくる子が“普通のサイズ”の、“ごくごく一般的”と言われる人間が、あちらこちらに生まれていても不思議じゃないと思うんだ」
トントンと指先でノートに書かれた年表を叩き、興奮気味に熱弁している。
「ごめん…よくわかんないんだけど…結局何が言いたいわけ?」
熱い彰の反面、円のうんざりした表情は既に『勘弁してくれ』と言わんばかりで、二人の間にはかなりの温度差がある。
しかし彰ははっきり言って生真面目な性格だが、他人の空気も表情もいちいち読まないタイプだ。
円のこんな表情を見たって止める気配はなく、ましてや気持ちを汲み取っているとは思えない。
「まず、こう言った誕生の者は、英雄視されたり神様より授かった赤子、神の子だと表現されることが多いだろ?あ、先に言っておくが、格闘家でそう名乗っていた人とは別だからな」
「ぷっ…わかってるよ。もう、真面目に聞いてるんだから」
円は苦笑し、飲みかけのペットボトルの紅茶をまた一口飲んだ。
「で、思ったんだ。それじゃあ、『それらの赤子は一体何なのか?』って。『目的』は?」
彰は自分を落ち着かせるように深く息を吸い、長い息を吐くと、手もとのペットボトルを取りゴキュゴキュと勢いよく水を飲んだ。
「高校からの付き合いの俺達しかいない…たった二人だけの我が『世界の摩訶不思議同好会』ボスの俺としては“宇宙よりの訪問者”説をここに掲げる」
ドンッと勢いよく置かれたペットボトルから、残り少ない中身の跳ねる音がした。
「“宇宙よりの訪問者”ってことは…つまり?」
「宇宙人と呼ばれる方々だ」
彰は仰け反り、古い回転式の事務椅子を軋ませながら天井を見上げた。
「かぐや姫が宇宙人てのは百歩譲ってヨシとしても、他は?だいたい、『御伽草子』だっけ?あれに載ってる話が何故宇宙人なのさ。助走なしで爪楊枝で棒高跳びしてるみたいじゃん」
円はフッと鼻先で笑う。
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