天人…

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「そして女性は妊娠。数ヶ月後、再度誘拐し赤子を取り出す。このケースの赤子達は受精卵が育った子全てと一部の混血児。残りの普通に地球上で出産された赤子は、混血児だが地球人として堂々と生きていく…」 「何のために?」 「俺の都合のいい勝手な推測だが、宇宙人達は進化していくうえで、頭脳の圧倒的進化と引き換えに深刻な事態に陥ったのではないかと」 ノートの一番後ろから紙を一枚出した。 そこには、“妊娠”“不妊症”と書かれ、イラスト入りの説明が書いてある。 「地球人でも現代このデリケートな問題で苦しんでいる人達がいると聞く。だから、おそらく宇宙人も、科学の著しい進歩があった背景で大気汚染や環境破壊など様々な影響で…その…」 こう言う話題は性格的に話しにくいのか、彰はガリガリと自分の寝癖もついたままの頭を掻いた。 「男女に関係なく妊娠が難しい体質になった…例えば受精しにくい、もしくは受精しても着床が困難など、不妊が星全体の大問題になり、人口が激減していったのではないかと」 彰は『ほら宇宙人は頭ばっかでかい、体はこんなにひょろひょろで…』と先程のページに戻り、端に貼ってある一枚の紙をペンの先で指す。 そこにはネットで探してきたのか、テレビや本で見るような宇宙人と思われる姿をとらえた画像を印刷してある。 「どんなに進歩した科学・医学をもってしても、そちらの改善が思わしくなかった。このままでは星が滅びてしまう。その為に考え出されたのが、自分達に近い体を持つ地球人の中から適任者を選び、その女性を妊娠させる」 円は頷くことも首を振ることもなく、ただずっと見ている。 その目を見ていると、何かが彰の中で警鐘を鳴らす。 “気をつけろ” “危険だ” …“逃げろ”と。 「拐った女性は代理母として受精卵を。その場合、生まれた赤子は純血の宇宙人だから生まれてすぐ宇宙人達のもとへ。だが、混血児として生まれた一部の赤子は、より正確な地球のデータを得るために送り込まれた刺客…いわばスパイなんじゃないかと」 “パンパン” 彰の語りの後――― 静寂した部屋に、無表情のままの円が彰から視線を少しも外さず、乾いた高い手を叩く音だけが響く…
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