* 顔に書いてある

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「好き」 その言葉が言えず、どのくらい時間が経っただろうか。 付き合っている以上、好意があるからで。今更、言葉にして改めて好きだなんて言える筈もなく。 我ながら素直じゃないな、と思う。 土方さんと付き合い出したのだって、本当に曖昧で。昔からずっと一緒にいて、なんとなくキスをして、どちらかともなく身体を繋げた。 情事の間の余裕がない土方さんが好きだ。耳元で囁く甘い声も、すっぽりと包み込まれる強い腕も。 (好き) 心の中ではこんなにも言えるのに。いざ、本人を前にするとこの2文字が出てこない。 「おい」 その声で振り返る。 「何難しい顔してんだ」 声の主は、土方その人だった。 人の気も知らず、頭をぽりぽりかきながら此方に向かって歩いてくる。 「別に何でもありやせん」 何となく気まずくて、顔を背けてしまう。目を合わせることができず、不自然な態度をとってしまった。 「嘘つけ」 腕を掴まれて、無理矢理に視線を合わされる。 「何か隠してんだろ」 不機嫌な顔をした土方が、沖田の顎を持ち上げる。真剣な目をしていた。 屯所の廊下で、今にも唇が触れそうな距離に顔がある。 こんなところ人に見られでもしたら、たちまち噂になってしまう。 「土方さ…っ」 「言わねーなら、このままキスしちまうぞ」 どきっと心臓が跳ねた。 廊下の向こうで、人の笑い声。 土方の顔が近づいてくる。 「ま、待ってくだせェ!」
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