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「好き」
その言葉が言えず、どのくらい時間が経っただろうか。
付き合っている以上、好意があるからで。今更、言葉にして改めて好きだなんて言える筈もなく。
我ながら素直じゃないな、と思う。
土方さんと付き合い出したのだって、本当に曖昧で。昔からずっと一緒にいて、なんとなくキスをして、どちらかともなく身体を繋げた。
情事の間の余裕がない土方さんが好きだ。耳元で囁く甘い声も、すっぽりと包み込まれる強い腕も。
(好き)
心の中ではこんなにも言えるのに。いざ、本人を前にするとこの2文字が出てこない。
「おい」
その声で振り返る。
「何難しい顔してんだ」
声の主は、土方その人だった。
人の気も知らず、頭をぽりぽりかきながら此方に向かって歩いてくる。
「別に何でもありやせん」
何となく気まずくて、顔を背けてしまう。目を合わせることができず、不自然な態度をとってしまった。
「嘘つけ」
腕を掴まれて、無理矢理に視線を合わされる。
「何か隠してんだろ」
不機嫌な顔をした土方が、沖田の顎を持ち上げる。真剣な目をしていた。
屯所の廊下で、今にも唇が触れそうな距離に顔がある。
こんなところ人に見られでもしたら、たちまち噂になってしまう。
「土方さ…っ」
「言わねーなら、このままキスしちまうぞ」
どきっと心臓が跳ねた。
廊下の向こうで、人の笑い声。
土方の顔が近づいてくる。
「ま、待ってくだせェ!」
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