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「鈴ちゃんて……柿原さんと女将さんとは、どういう?」
「どういうって……ただの幼なじみだよ。あれでも昔は可愛い顔しててな。鈴子とは中学まで同じクラスで、俺にバレンタインチョコなんか、よこしやがった。俺は、その当時、意味なんか知らねえから貰いっぱなしで……いや、そんなこたあ、どうでもいい。出版社のていたらくが犯罪を助長してるってのは新しい視点だな」
「若年層をターゲットにすれば出版社は儲かります。騙しやすいからです。誰も問題意識を持たない。いや、全部の出版社がそうだとは思いません。背景には世代交代があるんだろうと思います」
「世代交代? 若い経営者には出版社としての見識とモラルが無い。そういう事か?」
「ええ。出版業界に限らないと思いますが、要するに、本を読まず、漫画とゲーム浸けで育った世代が社会の第一線で仕事を任される時代に入った訳です」
「うむ」
「良識派の古参は退職して行く。タガが外れて、自由に事を進められる。ところが、確たる見識を持たず、先行きを見通す力が無い訳ですから、担当者は利益を上げる事にしか頭が回らない。拝金主義です」
「経営者が、じゃねえのかい?」
「そうです。経営者がそうであれば幹部職もそれに倣う訳です。一般職も金儲けの能力しか評価されないのであれば、なりふり構わず功績を上げようと動きます。手っ取り早いのは若年層をターゲットにした商売です。だから【異常なコミック】なんです」
「ふーむ」
「異常なコミックが少女監禁への興味を促して拍車をかけてしまった……と、僕には思える訳です。だって以前は、こんな異常な事件の件数は多くなかったのですから。この二、三年の傾向です」
「はーい。お待ちどうさま。今、焼き鳥作ってますからね」
女将が瓶ビールとグラスを置いた。
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