伝わるもの

9/20
前へ
/44ページ
次へ
「結花さんでしたね?」 フルーツパフェが無くなりかけたところを見計らって、マスターは学生に声をかけた。 「はい、立原結花です」 「お酒を飲める年齢ですか?」 「ええ、二十歳になりました。そんなには飲めませんけど」 マスターは巧みな話術で年齢を確かめた。 「では短編小説集の古典の中から、特に有名な話を紹介しましょうか。もしかすると高校で習ったかも知れません。この小説集のタイトルを当ててみて下さい」 マスターは、カウンターの下から印刷物を取り出して、1枚を結花の前に置き、1枚を手に取って読み始めた。 昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとに出でて遊びけるを、 大人になりにければ、男も女も恥ぢかはしてありけれど、男はこの女をこそ得めと思ふ。女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける。 「マスター、待って! 短編小説って、日本の昔話のこと?」 叶恵が声をかけた。 「そうです。古典です。短編小説は昔からあるのです」 「そうなの。私にも見せて下さる?」 「いいですとも! さあ、どうぞ」
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加