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「いらっしゃいませ! 理想の出会いをプロデュースする町田結婚相談所へようこそ!」
白い片開きの扉が遠慮がちに開かれて、ドアベルが慎ましやかな音色を奏でた。
私はパブロフの犬的な習慣で立ち上がると、お決まりの挨拶を口にする。
そして怪訝に首を捻った。
「あのっ――ここに来れば、繁殖相手をご紹介して頂けると……聞いて来たのですがっ!」
そこには入り口の扉を背に、もじもじと身じろぐ小柄な男性がいる。
「な、何分このような所は初めてでっ! 粗相があるとは思いますが――大目に見て頂けると……!」
柔らかそうな茶色い髪に、透けるような白い肌。
細い眉は不安げに八の字を描き、その下にある大きな目は落ち着きなく周囲をさまよっている。
私は苦笑を噛み殺した。
同時に、何ともほっこりとした気分になる。
そりゃあそうだろう。
ここは人生の伴侶を赤の他人である第三者に紹介してもらう場所だ。
誰だって気恥ずかしさや抵抗感を覚えてしまうだろう。
「どうぞリラックスなさって、こちらにお掛け下さい」
私は内心でうんうんと頷きながら、対面の席を手で示した。
するとビシュッという湿った音と共に、男性の背中から何やら紐状の物が飛び出して来る。
「――!?」
何だろう。
今何か見えたような気が……。
目を瞬かせて食い入るように凝視すると、先程見えた不思議な物体は消えていた。
目の錯覚だろうか……。
「すいませんっ! 緊張して――触手が……!」
――えっ?!
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