UMA様は結婚したい

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   脱皮?  脱皮って、何だろう?  いいえ、深く考えちゃ駄目よ。  心を強く持つのよ、喜美子。  私は相手に悟られない様、無音で深呼吸を繰り返す。  そして嵌め慣れた笑顔の仮面を装着した。  大丈夫。  例えどんなに奇天烈な相談者だったとしても、私が結婚する訳ではないのだ。  要は他人事だ。  私の仕事は相談者の希望に適う、理想の女性を紹介する事。  それ以外の事を考える必要も、詮索する必要もない。  私は気持ちを新たにして、ボールペンを手に取った。 「それでは、結婚相手に求める条件などを教えて頂けますか?」 「えぇっ?!」  しかしここで何故か、相談者は驚愕の表情で身をのけ反らせる。 「そ、そんな僕なんかが――条件を要求するなんて、おこがましい……!」  赤くなったり青くなったり、忙しなく顔色を変えながらもじもじと両手の指を絡ませ始めた。  私は世の無情さを感じて、目頭が熱くなるのを止められない。  良い人なのに……!  良い人なのにぃいいいい! 「結婚相手とは一生のお付き合いをする訳ですから、最低限の譲れない条件を言っておきましょう」  私は内心では金切り声を上げてのたうち回りながらも、表面上は穏やかな微笑を浮かべてみせる。  そして柔らかな声音で宥めるように言い聞かせた。  後になって様々な条件を突き付けるよりも、事前に言っておく方が良好な関係を築けるものだ。  そう言い諭すと、相談者は渋々と重い口を開く。 「そうですね……タコとかイカが好きな女性、ですかね……」  何故にイカタコ?!
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