第1章

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 外の雨音と腕の痺れにより夢の中から目が覚めた僕は条件反射のように布団の上に充電されている携帯電話の時刻の確認を行う、時間は午前7時をすぎたころであった。  どうやら昨日は作業中に寝てしまったらしく、椅子に座っている僕の腕はよだれか何かにより少し湿っていて、眠ってしまったことは納品日まで残りわずかということを考えるとあまり嬉しくない事実だ。   惰性で僕は片手にもっている携帯電話の着信とメールの確認を行う。ここ数年友人からの連絡は皆無である。理由としては僕が友人からの連絡に対して反応をしなかったからであろう。1年もすると僕の携帯電話はほとんど必要のないものとなってしまった。  何も変わり映えのしない履歴を見たあと僕は意味もなく友人のツイートなどを見て現状を見る。見ていてわかったことは、ここ数年で結婚した友人も少なくはないということだ。  気づけばみんな立派な大人になっていく、そんな僕は多少の収入があるとはいえ世間一般的には引きこもりの部類であろう。  僕は痺れてしまった腕を伸ばし、デスクトップに目を向ける。そこには30年毎日一緒にいる顔が無表情で僕を見つめていた。  机の上で眠ってしまったせいで疲れもあまりとれていなかったが、依頼を受けた期日の事を考えると布団の中でもう一眠りするという欲求は抑えなければならず、けだるげに僕は制作途中の作業を始めた。  しばらく作業をしていると猫がお腹をすかしているようで、なーごなーごと僕に要求をよこしてくる。  僕の現在唯一の友達はこの猫の「よもぎ」と「かなで」 話し相手もこの2匹だ。  僕は電話が嫌いなため、社会的には声がでない耳が聞こえないという設定にしているためほとんどしゃべるという活動をしない。  一時期は声の出し方を忘れてしまうほどでコンビニの店員に大きな声で大丈夫ですと言ったのは悪い思い出で、それ以来しばらくそのコンビニはいけなかった。   僕は重たい体で立ち上がり、タンスの中に置いてあるキャットフードをとり2匹分の量を2枚の皿にわけた。  よもぎとかなでの目の前にそれを置いて僕はまたパソコンの前に座り作業をする。  これが僕の5年間の流れ、きっとこれからも変わることはないだろう。
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