第1章

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彼は、まずキャンバスに薄く色を置くと、いよいよ本格的に色付けに入った 空はどこまでも青く、上空ではトンビが輪を描きながら飛んでいた 彼は心地よい春風を頬に感じながら、作品を少しずつ、少しずつ、完成へと近付けた 無地だったキャンバスに、原色の色鮮やかなチューリップや、草、山の緑、青空の清々しさは、まるで目の前の風景を切り取られたかのようにシンプルで美しかった 彼がいつも制作する個性溢れる作品の数々は都会的な町並みの風景画で光の描写に創意工夫が感じられ、世間の評判が高かったが、キャンバスの空間を埋め尽くす勢いの色の数々に彼自身どこか疲弊していた この作品には余分なものは一切描かれていない そのシンプルさがかえって彼には美しく見えた だが、何か物足りない 何か・・・
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