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私は部屋を移された。
真っ暗な格子のある部屋。
父が私を呼ぶ名前も変わった。
「朱雨(シュウ)」
朱(アカ)い雨。
朱はこの世界で不吉な証。
怖いものの象徴だった。
その日から私の世界は暗いものになった。
それでも希望は捨てなかった。
毎日食事を運ぶ彼だけが光だった。
「玲蘭、大丈夫?」
「うん、平気。いつもありがとう。呼ばないんだね、朱雨って」
「呼べないよ、君みたいな可愛い子をそんな不吉な名前で」
「私、あなたが好きよ?」
言葉にすると、心臓が跳ねた。
そして冷たいものが走ってきた。
なんだろう?
私は何かを忘れている。
何かを思い出さなくてはならない気がした。
「僕も好きだよ、玲蘭が」
彼の言葉が嬉しくて気にしないようにした。
それからの日々は幸せだった。
同じ想いを抱えてる。お互いを想い合える、それは幸福なことだと知った。
それに付随して忘れていた事を徐々に思い出した。
母のことだ。
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