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「違うよ?愛って安らぎを与えることでしょ?母は父を愛していたから、父に殺されたんだよ?」
「それは、違うよ、玲蘭。それはーー」
何度も短剣を彼に突き立てながら、私は何かが間違っていることに気づき始めた。
「知らないんだね、可哀想な子。僕は本当に君を愛していたのに。大切にしたかったのに。君は……僕がーー」
そこで彼は死んだ。
私は彼の最後の言葉に泣いた。
すがりついて体温のない彼を抱き締めた。
愛していたのに、殺してしまった。
愛していたから、殺した。
これが正しかったか?
「朱雨、よくやった。立派な愛だった」
父は褒めてくれたのに心に空白が埋め尽くす。
心が痛い。
初めて抱き締めてくれる父に私は素直に喜べなかった。
ようやく分かった。
愛とは哀なんだ。
愛とは悲しいことなんだ。
愛とは怖いものなんだ。
知っていたのだ、私は格子の外で父が言うように白嵐と彼が仲良くしていることに。
憎かった、殺してしまいたいくらいに。
愛していたから、憎かった。
「いやぁぁぁーー」
私はもう誰も愛さない。
愛は怖いものだから。
愛は痛いものだから。
もうこれ以上、誰も傷つけたくないから……。
これは彼女と彼が出会う前の話。
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