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腹部に鈍痛を感じて目を覚ますと、朝と呼ぶにはまだ早すぎる時間帯だった。
腕の中には気持ちよさそうに寝息を立てる、トレードマークのポニーテールをほどいた彼女。
ひとしきり抱かれて疲れたのか、昨晩の行為の後、沙那はベッドに突っ伏したまま眠りに就いてしまった。
星也もつられるように毛布にくるまり、共に夢の中に突入したはずだが。
安眠を妨げた鈍い衝撃の正体は、眠っているはずの彼女がお見舞いした必殺キックである。
星也はベッドから下り、宮棚に置いた眼鏡に手を伸ばした。
次いで乱れた毛布を剥ぐと、滑らかな白い肢体が露わとなる。
彼女の膝の裏と脇の下に手を差し入れ、一旦抱え上げて丁寧に下ろし毛布を掛け直した。
彼女の寝相が宜しくないのは交際以前から知っている。
多くの他人の前では猫かぶりなくせに、気を許した相手には意識がある時もない時もとことん攻撃的だ。
人によっては百年の恋も冷めるかもしれない。
きっと自分じゃなきゃ耐えられないだろうと、自画自賛にも似た自惚れを胸中で呟いた。
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