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寝相の悪さを初めて知ったのも、こんな衝動に駆られた夜だったな。
そんな思いを馳せながら、無防備に僅かに開いた桜色の唇にそっと口付けを落とす。
「……ん…」
離れた隙間から漏れた艶めかしい息。
虚ろに目を開けた沙那の、求めるようにしなやかな腕が星也の首に回される。
足蹴りをくらわせてくれたかと思えば、無意識にこちらをねだって。
「とんだ飴と鞭の使い魔だな…」
意図せずこちらを振り回してくれる彼女の策士ぶりに臍を噛む。
悔しい。けれど、このまま溺れていたい欲も疼く。
他の奴等じゃ興醒めだ、耐えられる俺だけが傍にいていいんだという主張は言い訳で、自分だけに与えられた特権に溺れていたいのだ。
「やっぱりもう少し寝るとするか」
思い直した星也は宮棚に眼鏡を戻した。
この先、一生誰にも権利は渡さない。
固い誓いを胸に、吸い寄せられるようにまた唇を重ね、まどろむ彼女が待つ毛布に再びくるまった。
fin.
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