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ズルい。普段は紳士なくせに、時々こうやって意地悪なんだから。
瀬名が恨みがましそうに視線を送ると、堪えきれなくなったのか水上はとうとう吹き出した。
「あはは、だよね、デザートはゆっくりじっくり味わうものだよね」
彼女のシャツの下に潜り込ませた手を引き抜いて、その手で自分の口元に拳を作って破顔している。
「からかったんですかっ」
「いや、瀬名イジると面白いからつい…料理してる間も俺が隣にいるの意識してるみたいだったし、なのに一生懸命繕ってるのが可笑しくて」
「…っ、知ってて…!弄ぶなんて酷いです!」
仕返しとばかりに瀬名が水上の胸ぐらを叩いたものだから、白くふわふわとした泡が彼の衣服に付着した。
「着替えてくるね」
笑いを噛み殺しながらの水上がキッチンを発つ。
「ついて来ないの?」
「行かないですっ。着替え覗くほど私がっついてないですもん!」
自室に向かう水上の背中に、耳まで染まり上がった顔で必死に抗議する瀬名。
そんな立腹する彼女を宥めるように、鼻を掠めたのはオーブンから漂うチーズが焼ける香ばしい匂い。
程よく仕上がったグラタンを二人で平らげた後、水上が宣言通り『デザート』を丹念に味わったかは言うまでもない。
fin.
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