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「…な、何」
「練習だ。俺がお前の名前を呼ぶからお前も名前で呼んでみろ」
「酔ってるでしょ。こっそりビールでも飲んだ?」
「酔ってない。至ってシラフで矯正に臨んでる」
即答した星也が、沙那の顎に片手を添える。
「…沙那」
息がかかりそうなぐらいの間合いで低い声が落ちた。
「…っ、む、無理!」
「この間は言えたぞ」
「あれは勢いで…!今急にハイどうぞって要求されても出来ない!」
「やれば出来る。なせば成る」
「………」
一体この状況に何の意味があるのか、思考は麻痺したまま答えを導けず。
眼鏡の下から送られる『言え』という強い訴えに、直視に耐え切れなくなった沙那はふいと視線を逸らした。
「……せ、いや…」
恥ずかしい。恥ずかしくてたまらない。
顔から火が出そうとはまさにこの事だ。
たどたどしく、半ば涙目になりながらやっとの思いで紡ぐと。
「イイコだ」
目尻を拭われるようなキスが落ち、かと思うと啄むように唇同士が軽く触れた。
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