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刑事たちが忙しなく部屋を行き来している。
カメラのフラッシュが目を突く。
防臭剤や除湿剤などにまみれた遺体は壁から取り出され、警官によって運び出されていった。
俺と女は事情聴取を受け、深夜にやっと解放された。
俺の入居日と遺体の白骨化具合から、俺は容疑者リストから外されたようだ。
まだ落ち着かない女を抱き寄せて、俺たちは女の家に帰った。
あの部屋にはもう住めない。
必要最低限のものだけを運んで、俺は女の部屋に転がり込んだ。
あんなもののお陰で、図らずも同棲を迫っていた女の思惑通りになってしまった。
後輩が怯え、引っ越せと言っていた理由がやっと理解できた。
きっと彼女には目に見えない何かが見えていたのだろう。
あれ以来、穴が怖い。
壁の中から現れた、表情を失ったしゃれこうべが頭から離れない。
見られているような気がする。
じっと、じーっと……。
俺の前にあの部屋に住んでいた男が逮捕された。
被害者は隣の部屋に住んでいた女だった。
事件の全容は暴かれた。
詳細なんかどうでもよかった。
一日も早く忘れてしまいたい。
同僚が声を掛けてきた。
「おい、大変だったな、お前」
今でも大変だよ、俺は。
「俺、あの部屋に泊まったんすよね?マジ怖え」
今でも怖いよ、俺は。
離れたところから後輩が俺を窺っている。
きっと彼女には見えているのだろう。
俺と目が合うと、悲しげに目を伏せた。
彼女は解っている。
俺が情を移してしまったことを。
そんな俺に、彼女が出来ることはないことを。
もし、少し前の俺に忠告することが出来るなら。
迷わずに引っ越せと言う。
ジッポの行方など気にせずに穴を塞いでしまえと言う。
そして、一刻も早く寺でも神社でも駆け込めと言うだろう。
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