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田舎の飲み屋は閉まるのが早い。 プレゼンで勝利して、うちの会社のシステム導入にgoサインが出た夜、同じ島の仲間と飲みに出掛けた。 システムエンジニアという職種は男女問わず夜中までパソコンとにらめっこが日常で、たまにしか羽目を外せない。 俺たち数人は居酒屋を出た後、集まるにも帰るにも泊まるにも適した俺の部屋で、二次会をすることになった。 ところが、一番後ろを歩いていた後輩がピタリと足を止めた。 「すみません……私、やっぱり帰ります」 「えー、紅一点が帰っちゃうのつまんねーよ」 「だけど……」 彼女は言い澱む。 一人が合点がいったように弁明した。 「あ、大丈夫よ、警戒しなくても。俺たち紳士だし」 勘違い甚だしくて苦笑しかできない。 「えっ?そういうんじゃなくて」 彼女は慌てて手を振った。 「行こうよ」 「いや、ほんとにごめんなさい!」 同僚が掴んだ腕をやんわり振り払い、頭を下げた。 そして俺の横に来て、小さな声で 「情が移らないうちに引っ越ししてください」 そう早口で呟くと、くるりと背を向けて小走りに近い歩調で去っていった。 後ろ姿を見ながら、ぽつりと一人が呟いた。 「ここまで着いてきといて、そりゃないよなあ」 「お前に食われると思ったんじゃねーの?」 「俺が食ったらお前らも食うだろ?」 「俺は止めるよ、おれは!」 「ぎゃははは、嘘つけ!」 下世話な話をしながら、同僚たちはアパートの階段を上っていく。 俺は立ち去る彼女を黙って見つめた。 ひきつった表情の彼女が気になった。 駅まで送ろうにも、家主が外せば同僚が路頭に迷う。 俺は頭を振ってドアが開くのを待っている同僚たちの元へ動いた。 本当は彼女を追いかけたかった。 知りたかったのだ。 彼女が残した意味深な言葉の意味と、 一度だけ振り返った彼女が視線を送ったのが、俺達ではなく、俺の部屋だった訳を……。
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