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二日酔いで頭が痛いとか、床で寝たから体が痛いなどと悪態ばかりをつく輩から解放されたのは、昼近くなってからだった。
ビールや焼酎の瓶をまとめ、ごみに出そうと玄関を出たとき、隣人と鉢合わせた。
彼女はドアノブに手を掛けながらこちらを見た。
「こんにちは」
女性は艶やかな黒髪と純白のスカートを風になびかせ、柔らかに微笑んだ。
美しい女だった。
顔に似合わず、少し幼い声が耳をくすぐった。
「……こんにちは」
それだけだった。
微笑む横顔を残し、女性は開けたドアに遮られて見えなくなった。
そして、パタンという音と共に隣室に消えた。
知らなかった、あんな綺麗な人が隣に住んでたなんて。
挨拶をした、それだけなのに高揚感が沸き上がる。
たおやかな体を組み伏せて、柔らかい胸に顔を埋める妄想までする。
ますますここを離れる気がなくなった。
その日の夜、いつものようにやって来た女を俺は抱く気になれず、二日酔いだと嘘をついて早々と横になった。
女が上げる声が隣に聞こえるかもしれない。
ベッドの軋みが隣に伝わるかもしれない。
それだけは我慢ならない。
女は不服そうな顔をして背中を向けた。
「明後日、早く帰ってきてね」
お前は早く黙ってくれ。
話し声が響くと困る。
「ああ、わかったよ」
女を黙らせるために愛想よく返事をして目を閉じた。
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