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週明け、後輩は会社でもよそよそしい。 「一刻も早く、お祓いと引っ越しをしてください。 お願いです。 それと、先輩、情は捨ててください」 それだけぼそりと呟いて。 それ以後話しかけようとしても、近づくと逃げられる。 もどかしいままに一日が過ぎていった。 定時なんてものが存在しているとは思えない会社の一社員である俺は、帰宅が午前様なんて日常茶飯事だ。 今日も日付が変わってから、自室のドアを開けた。 女が怒り狂った顔で出てくる。 「今日は早く帰ってきてって頼んでたじゃん!!!」 はあ、なんでこの女に鍵を渡したのだろう。 数ヵ月前の自分を恨む。 部屋はすっかり片付いていて、テーブルには冷めてしまった数々の料理が並んでいた。 そういえば、付き合いはじめて一年目だのなんだのと言われた気がする。 「仕事なんだから仕方ないだろ」 ネクタイを緩めながらため息をつくと、女が喚いた。 「こんな時間まで仕事なんて、会社がおかしいか、あんたの能力が足りないか、どっちかじゃない!!」 「うるせえっ」 背広から取り出したジッポを力一杯壁に向かって投げつけた。 ひっと女が身をすくめる。 作り付けのクローゼットの横の壁に当たる。 ぼすっと重い音を立てて、ジッポは壁の中に消えた。 壁を突き破ったジッボがごとりと落下していった。 金属に開けられた穴からむわりとかび臭さとすえた匂いが漂う。 「帰れよ」 低く、唸るように言うと、女はバッグを掴んで部屋を飛び出していった。 ぽかりと口を開けた穴が、虚しく見えた。
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