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今日は比較的早く家に帰ることができた。
女のシフトは夜勤、自由な夜だ。
トントンと階段を上ると、ちょうどお隣さんが部屋から出てきた。
左目に眼帯を当てている。
怪我でもしたのだろうか。
「こんばんは」
ふんわり微笑まれてドキリとした。
「こんばんは」
彼女は俺の前を通り、階段に向かっていく。
これだけのやり取りじゃ惜しい。
慌てて声をかけた。
「あのっ」
不思議そうに振り向く彼女の髪がさらりと揺れた。
「あの、そうだ、昨日の夜、大きな音しませんでした?」
ジッポを壁に投げつけたのを思い出し、咄嗟に話を繋ぐ。
「いえ。気になりませんでしたよ?」
「そうですか、それならよかった」
会話が終わってしまう。
他に話題がないかと脳内を捜索する俺に、彼女は微笑んだ。
「今お帰りですか?」
「ええ」
「ご都合がよろしければカレーライス、お召し上がりになりません?」
「え?」
突然の申し出に軽く目眩がした。
「美味しくできたので、嬉しくて。
ご迷惑でなければ是非。
今からビールを買いにいきますので、十分くらいで戻りますから」
「び、ビールなら俺が持っていきますよ。
この間買ったのがまだ残ってるんです。
銘柄、なんでもいいなら。カレーのお礼に」
願ったり叶ったりだ。
彼女の部屋で彼女の手料理を食べられるなんて。
「じゃあ甘えさせていただこうかしら」
ニッコリと笑って彼女は体の向きを変えた。
「持ってきます。少し時間ください」
急いで部屋に入る俺を彼女は微笑んで見ていた。
これは……。
おいしい展開にほくそ笑む。
スーツを脱ぎ捨て、急いでシャワーを浴びた。
やぼったく見えないように身なりを整え、ビールを6本抱えて、俺は部屋を出た。
歓喜と劣情も抱えて。
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