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すっきりとした、シンプルな部屋だった。 小さなちゃぶ台がラグの上に乗っかっている。 既に夕げの支度は出来ていて、俺たちはビールを開けて缶を合わせた。 うまいカレーを平らげ、ほろ酔い気分でお互いの話をした。 自己紹介から始まり、パートナーの有無の話になったとき、俺も彼女も言葉を詰まらせた。 鍵を渡している女が俺にいることは、隣に住んでいれば察しがつくだろう。 どんなに目の前の彼女に心惹かれているとは言え、付き合っている女がいるのは事実だ。 彼女は寂しげに微笑んだ。 「素敵な彼女がいらして、羨ましいわ。 私の相手はひどい男だから……」 白い眼帯が痛々しく映った。 「もしかしてその目は?」 「いいえ、これは違うの。ぶつけてしまって」 「そうですか」 彼女はちゃぶ台の上に滴り落ちた缶ビールの結露を、人差し指で拭った。 「私を助けてもらえないかしら」 唐突に彼女は言った。 「ごめんなさい、あなたに素敵な人がいるのは知ってるけれど。 でも、あなたに会ってあなたを見ているうちに、私……」 核心に触れないものの言い方に期待感が高まる。 「あなたに助けてほしいの」 上目使いに潤んだ瞳で見つめられれば、バカな俺はたちどころに虜になる。 「僕に、出来るなら」 「嬉しい」 彼女が首に手を回してきた。 柔らかな髪に顔をくすぐられ、ビールで火照った体に柔らかい彼女の胸が押し付けられ、さらに火が上がる。 線が細い割に豊満な胸を持っていることを、俺の体は感知し、男の性はあっさりと形を示した。 俺を見上げる瞳が、欲情の色を灯している。 俺の行動を待っている。 ……その夜、明け方まで俺たちは交わった。
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