ユーザーズ・マニュアル【邪術師は逆襲する】

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 メダルゲームやらプリントシール機、対戦格闘やオンライントレーディングカードゲーム……。時代とともに少しずつ様変わりし、今ではすっかり無軌道かつ軽薄な若者やアベックの溜り場と化したアミューズメント施設の中にあって、しかし誰一人目を向けるもののいないシューティングゲームの筐体が列を成す一角。この店は未だ頑固に『ガルレウス』を筆頭としたレトロゲームの筐体を未練がましく四台も並べていた。  脩は、これが好きだった。  避けて、撃つ。至極単純なこのゲームシステムはまさに人間の持つ能力が全て問われるものだ。  画面上からどう動くかを瞬時に組み立てる状況判断、予期せぬ事態にも揺らぐ事のない反射神経、高速の敵や弾に対応する動体視力、それらを保ち続ける持続性、そしてそれら全てを手元の動作に直結させる伝達力。  それら全てが伴わなければ、この世界ではトップランカーには成り得ない。人間の確かな力。それがそのまま試されるこのジャンルが、脩は好きだった。 「そう言えば。いつもの幼馴染みのあの娘はどうしたのかしら?」 「有紗なら多分今頃は中央通りでいつもの画材漁りだ。締め切りが近いのに色々切れたからってよ。その後は担当と打ち合わせだそうだ。まぁ……アキバとブクロ、そして中野はあいつのホームグラウンドだからな、俺が付いていなくても迷う事は無いさ」 「ふぅん。彼女、学生のアルバイトにしては大層な事しているのね。……だけど夕映え時の繁華街を女の子一人で歩かせるなんて感心しないわよ? 暇を潰す場所なら他にあるんじゃなくて?」 「こんなトコに一人でやって来たあんたが言うな」  リリィはふと思い立って、脩が挑んでいるガルレウスのプレイ画面を覗き込んで思わず口元を緩める。  対空兵器のバルカン、対地兵器のナパーム、どちらをとっても脩のゼロス捌きは、見事としか言いようの無いものだった。  シルバーの敵機から高速で放たれる弾丸をそれこそ紙一重のところで躱し、その間に出来た僅かな隙に、ピンポイントで一撃を叩き込む。自機手前の照準を地上の敵にいち早く合わせ、すぐさまナパームを投下して破壊する。  眼から脳へ、そして手へ。脩の思考、そして行動のリンクは素早く、そして正確そのものだ。森林、砂漠、平原、海、地上絵…………。
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